松江地方裁判所 昭和25年(行)7号 判決
原告 荒川盛
被告 松江税務署長
一、主 文
原告の訴はこれを却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
(原告の申立と主張)
原告訴訟代理人は、「被告が昭和二十五年五月十八日附通知書によつてなした原告先代荒川才五郎に対する昭和二十四年度所得金額を三十一万五千六百円とする決定を取消す、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として次のように述べた。
原告先代荒川才五郎は、松江市竪町で硝子商を営んでいたところ、昭和二十五年二月十一日死亡したので、原告が單独でその遺産を相続したものであるが、被告は、同月二十五日附通知書によつて原告先代に対する昭和二十四年度所得金額を三十八万五千円と更正した。原告は、これに対して同年三月二十三日附書面で異議の申立をしたところ、被告は、同年五月十八日附通知書によつて前記所得金額を三十一万五千六百円と変更決定した。しかし、原告先代の昭和二十四年度所得金額は別紙計算書の通り二十万三千九百円であつて、被告の右の変更決定は事実に反し違法のものであるから、原告は被告に対しその取消を求めるため本訴に及んだのである。
次に原告訴訟代理人は被告の抗弁に対し次の通り述べた。
原告は、更正決定に対する不服申立の方式を知らなかつたので前記の通り三月二十三日附で審査請求の法定の期間内に異議申立書を提出しておき、同年四月二十一日右申立書を補正して正式の審査請求書を提出したところ、被告は、もはや法定の期間を経過したという理由でこれを受理せず、同月二十五日右の書面を原告に還付した。しかし、右の審査請求書はその前に提出した前記の異議申立書を補正したものであるから、前記の異議申立書の提出が法定の期間内になされている以上、適法な審査の請求があつたものと解すべきであつて、被告がこれを受理しないのは違法である。その後同年五月十八日被告は前記の如く原告の所得金額を三十一万五千六百円に変更する決定をしたが、原告は右に対し不服であつたので、再び審査の請求をしようとしたところ、被告は期間の経過を理由にこれを受付けなかつた。從つて、右変更決定に対して改めて審査の請求を経ないで訴を提起しても、正当の事由があるといえるから本訴は適法である。なお、被告の変更決定は、原更正決定そのものの單なる誤謬訂正ではない。それは、原更正決定そのものとは別個の行政処分であり、それ自体抗告訴訟の対象となり得るものであるから、この意味でも本訴は何等不適法ではない。
(被告の申立と主張)
被告訴訟代理人は、主文第一、二項と同じ趣旨の判決を求め、本案前の抗弁として次のように述べた。
原告がその主張の更正決定に対し提出した異議申立書は廣島国税局長宛とせず被告宛にしているから、審査請求書としての所定の方式を具備せず、しかも提出期限である昭和二十五年三月二十五日を経過して同月二十七日提出せられたものであつて、それは、審査請求として不適法のものである。被告はこれをいわば單なる被告宛の陳情書として受理したものに過ぎないのである。そして、原告は正式の審査請求書を法定の期間が経過した後に同年四月二十一日提出したのであるから、被告がこれを受理しないことは何等違法ではない。原告は前記の変更決定に対し審査の請求を経ないで本訴を提起したのであるから本訴は不適法である。
なお、被告が同年五月十八日附でなした変更決定は、職権を以てした同年二月二十五日附更正決定の單なる誤謬訂正に過ぎないものであり、これにより原更正決定が消滅するわけのものではなく、原更正決定は、右変更決定により訂正せられた限度に於てそのまま存続するのである。從つて前記変更決定は独立の行政処分として抗告訴訟の対象たり得ないから、前記変更決定に対してのみ提起された本訴はこの点においても不適法である。(当事者双方の立証省略)
三、理 由
原告先代荒川才五郎が松江市竪町で硝子商を営んでいたこと、昭和二十五年二月十一日同人が死亡したので、原告が單独でその遺産を相続したこと、被告が同月二十五日附通知書によつて原告先代に対する昭和二十四年度所得金額を三十八万五千円と更正決定したこと、原告がこれに対して同年三月二十三日附異議申立書を被告に提出したこと、同年四月二十一日原告が右更正決定に対する正式の審査請求書を提出したこと、被告が同年五月十八日附通知書によつて前記所得金額を三十一万五千六百円と変更決定したこと、原告が右の変更決定について審査の請求に対する決定を経ないで本訴を提起したことについては当事者間に爭がない。
証人中島金次、渡部喜徳の各証言及び弁論の全趣旨によれば、前記昭和二十五年二月二十五日附更正決定に対する審査請求の期限が同年三月二十五日であつたことを認め得る。そして成立に爭のない甲第一号証の一によれば、原告が提出した前記異議申立書の宛名は被告となつて居り、その書面の右肩に押してある松江税務署の受付印の日附がもともと二十五年三月二十七日であるにも拘らず、インキで七を五に書き直した上、右書面の左肩に鉛筆で算用数字で二五、三、二五受付と横書きしてあることが認められるのであるが、証人九矢健次郎、住田富雄の各証言によれば被告側で前記のような訂正をしたものとは認められない。從つて右の事実と証人九矢健次郎、住田富雄の各証言をあわせ考えれば、原告は前記審査請求の期限を経過した同年三月二十七日被告宛に前記異議申立書を提出したことを認めるのに十分である。元來前記更正決定に対する審査請求は法定の期限内に被告を経由して廣島国税局長に宛て提出すべきものであるから、前示異議申立書が審査請求としては宛名を異にし期限を経過した不適法なものであることは明白である。更に原告が同年四月二十一日提出した正式の審査請求書は、期間経過後になされたものであつて、不適法であるから、被告がこれを受理しなかつたのは何等違法ではない。更に、その後被告が同年五月十八日附でなした本件変更決定に対して原告が審査請求をなしたこと(果して本件変更決定に対し独立して審査請求をなし得るか否かは暫らく別論として)については何等これを認めるに足る証拠は存在しない。そうだとすると、本件の変更決定について審査の請求を経ないで本訴を提起するについて、原告は何等正当の事由がないものといわねばならない。從つて、もはやその他の爭点について判断を加えなくても原告の訴の不適法であることは明らかであるから、これを却下すべきものである。
よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九條の規定に從つて主文の通り判決する。
(裁判官 松本冬樹 組原政男 浜田治)
(別紙省略)